Rain Second 39

「なんで・・・ここに」
ユノの目は明らかに俺を責めていた。どんな目で見られても。
お前に会えるならいい。今まで、軽く考えすぎてた。
お前が俺のそばにいてくれる、奇跡を。
「彼が呼んでも来ないけど、僕が呼んだら来るってことを教えてあげたくてね」
ホジュンさんが意地悪く言う。ユノは自然にホジュンの隣に座った。不機嫌な顔で。

「ユノ、本当に・・・ごめん。俺、お前じゃなきゃダメなんだ」
ユノは鼻で笑う。首を横に振って。
目を閉じた。隣に座るホジュンさんがため息をつく。
「あなたはそうかもしれない、チャンミンさん。でも、ユノは違うみたいですよ」
ユノは何も答えなかった。
「・・・ユノ」
見つめる目を、避けて。
ユノはコーヒーをすする。甘い飲み物のほうが、好きなくせに。
奴といるときは、無理してるんじゃないか。
「なんで、そんなの飲んでるんだよ、ユノ。好きなものを飲めばいいだろ? なんで無理して・・・」
俺の言葉に。
ホジュンさんが笑った。なんで笑われているのか、わからなかった。
「あなたは本当に何もわかってないんですね」
ユノが憮然とした表情でカップを置く。

僕はこんなもの勧めたりしませんよ。僕はユノに何でも好きなことをさせる。
甘いものが飲みたければココアでも、どんなに甘いストロベリードリンクでも、好きなだけ飲ませる。
でも、ユノは。・・・無理をしてでも、好きな人に合わせたいんです。
その人がコーヒーを飲むからコーヒーを飲む。
好きでもないのに、いくつか買い込んで飲み比べまでしてる。
僕なら何も言わないで好きにさせてやるのに、小言を言われても浮気されても嫉妬で不条理に怒られても。
じっと、耐えるんですよ。かわいそうで見ていられない。
僕にしたらいいって、何度言っても聞かないんです。
僕なら、好きなだけ甘えさせてやれる。ユノが求める優しさを全部あげる。
ユノを信じて、一度も疑ったりしない。ユノが苦手なことは、文句ひとつ言わずにしてあげるのに。

・・・それでも。ユノは、その人じゃなきゃダメなんだそうです、よ。
チャンミンさん。ホジュンさんは立ち上がって伝票を持つ。
それは、俺が。言うとホジュンさんは俺の言葉を片手で制して。

最後くらい、カッコつけさせてください。・・・ユノ。
君が望むなら、ずっと、居心地のいい親友でいてあげる。



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Rain Second 38

「それが、どうかしましたか?」

レラに言われた通り、ホジュンさんを呼び出して。
ふたりの行きつけの喫茶店だと、いう。
店長にも、「ユノくんは?」なんて言われて。
思わず唇を噛んだ。

「あなたが今までユノと住んでいたからって、そんなの関係ないですよ。
聞いてもいないのに、言ってましたよ、ユノは。俺といてもダメみたいだ、って」
その言葉に、苦しくなる。
俺といてもダメみたい。なんて。

何も言えなくなった。ユノを返してくれとも。
話をさせてくれ、とも。
落ち込む俺に追い打ちをかけるようにホジュンさんは言う。

「ユノを、ここに呼びましょうか。あなたが言っても来ないけど、僕が呼んだら来ますよ」
勝ち誇ったような顔。俺の目の前でユノの携帯に連絡する。
俺がいることを言わずに、呼び出した。

それからすぐにユノは店に、来て。
俺の姿を見て絶句する。


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Rain Second 37

「あー、あいつかぁ」
レラが舌打ちをする。店に来たわけじゃない。いざという時のために聞いといた連絡先。
早速昼間に呼び出してホジュンとかいう男のことを話した。
「知ってるのか」
「ああ、知ってる。あいつも古いからな」
「古い?」
「昔からの知り合いってことだ。堅物すぎて俺とは合わなくてな」
あ、それはわかる気がする。
レラは明らかに他人事って顔。あいつんとこ行ったかあ、って笑ってる。

「お前、よほど怒らせたな」
「怒らせたって・・・。ちょっとした下心程度だろ。なんであんなに怒るかな・・・」
「お前が怒ってばっかりいるからだろ? あいつを信じてないくせに」
「信じてない?」
「前から言ってたよ、ユノは。チャンミンは俺を信用してないって。俺は仕事しに来てるのに、浮気すると思ってるって」
・・・ユノからすれば、そう思うかもしれないけど。
俺は、ユノ自身を信用してないと言うよりも。
あいつが無防備すぎるから怖いだけだ。あいつにその気がなくたって周りが寄ってくるから。
チェックするつもりで行ってたのに。
・・・自分がその罠にはまってちゃ、そりゃ愛想つかされるよな。
「あの見た目であの性格だ、いいように使わせてもらってるさ。客商売だから。でもな」
レラが珍しく真剣な顔をして言う。
「あいつはお前だけだよ。気が多く見えてもな、結構繊細なやつなんだ。めんどくさいくらいに」
「・・・うん」
「心から信じた相手しか付き合わない。付き合えない。だからこそ今回、相当傷ついてるはずだ」
「どうしたら、許してくれる・・・かな」
レラはバカにしたように笑う。
「一度信じた人間をいつまでも信じぬく馬鹿なヤツだ。だからこそ傷つけられたら根が深いぞ」
その言葉に、改めて、傷つく。
ユノをそこまで、傷つけてしまったことに。
そしてそれを俺が、あまりにも軽く考えていたことに。

俺もそれとなくとりなしてやるけどな、あとはお前次第だ。
ホジュン、あいつも、ずっと前からユノを好きで、でもあいつが受け入れないから友達の顔してやってんだ。
ユノさえその気になれば。
本当にあいつに持ってかれるぞ。とりあえず俺が先にユノを呼び出す。
お前はその間にホジュンと話をつけろ。




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Rain Second 36

目が覚めても、お前はいなかった。
もしこのまま別れることになっても、荷物は取りに来るはず。そのとき、ちゃんと。
土下座でもして謝ってお前にここにいてくれと頼む。俺を愛してくれと。
許してくれ、と。

ユノの携帯から電話がかかってきた。
「もしもし?」
焦って出たけど、その、声は。
「もしもし・・・あの、チャンミンさん、ですか?」
知らない声だ。
「はい、そうですけど、あなたは?」
「ホジュンと言います。ユノの、友達です」
・・・誰だ。俺は聞いたこと、ない。
「そう、ですか。・・・で、ユノは?」
「今、横で寝てます。ずっとあなたのこと・・・話してたから」

その言葉に、うれしい気持ちよりも、嫉妬が沸き上がる。
ユノが隣に眠るほどの親しい仲。ユノのスマホを勝手にいじれるような。
動揺しながらも、ここで舐められるわけにはいかないと、気合を入れなおす。
「あの・・・つかぬ事をお伺いしますが」
「なんですか?」
「ユノとはどういうご関係でしょうか?」
ホジュンさんはわかりきったことを聞いてくる。カッとなって、思わず。
「恋人だ。ずっと俺の話してたなら・・・わかるだろ?」
電話の向こうで、フッと笑い声がする。・・・なんだ、こいつ。
「恋人なら・・・どうしてあんな遅くに、ユノが僕のところに来るんです?」
「それは」
「別に僕はユノとはそういう関係にはありませんがね。ユノさえ望むなら、いつだってなれるんですよ」
「あんた・・・何を」
「恋人であるあなたがちゃんとしないから、僕の所へ来たんでしょう?」
「ただの誤解だ」
「そうでしょうか? ・・・ユノはしばらく泊めてくれと言ってます。僕はいつまでいても構わないと言いました」
楔を、打ち込まれたように。
苦しくて声が出せない。

別にいいんですよ、僕はいつでも、ユノを受け入れる準備はできています。
あなたの番号だって、今すぐ消すことができる。そこにあるユノの荷物は、大したものはないでしょう?
処分してくださっても構いませんよ。僕がすべて、住む家も、着る服も、愛情も、与えますから。

勝ち誇ったようにそう言って電話は切れた。
・・・どうすりゃ、いいんだよ。ショックが大きすぎて。
動くことさえ、できない。


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Rain Second 35

このまま、別れたほうがいいのか。すぐにでも追いかけたいくせに。
言い訳の言葉が、見つからなかった。お前の、あの傷ついた目。
でも、もしお前がこのまま戻らなかったら、俺はどうすればいい?
一時の気の迷いで、お前を永遠に失うのか。

そう思ったら、いても立ってもいられなかった。どっちへ行ったか分からないのに、適当にあたりを付けて。
走り出す。まだ捕まえられる距離しか動いていないはずなのに、見つけられなかった。
さては、反対か。舌打ちして、ユノに電話をかける。
・・・出ない。当然だ。わかってはいても。

あちこち走り回った。行きそうな場所はすべて行った。知ってる限りで電話もかけて。
店ももちろん行った。ユノは来ていなかった。連絡が来たら、電話してやるとレラに言われた。
仕方なく家に戻る。当然、鍵もかかってる。ドアを開けても、ユノはいない。
真っ暗な部屋。
なんでもない、夜のはずだった。お前を迎えに行って、ちょっとだけ夜の空気を楽しんで。
それのどこがいけない? 別に本気で浮気したわけじゃない。
ユノが見ていなかったら? ・・・そこは確かに即答できない、だけど。

お前を失うくらいなら最初からおとなしくしてたさ。
俺だってお前があんなに怒るなんて思わなかった。
今まで問題なく付き合ってきて、今さらこの程度のことでこんなけんかになるなんて。

・・・でも、さ。俺、おかしいだろ?
うれしいんだ。お前が、マジで嫉妬したことについて、さ。

一向に出る気のないお前の、スマホに。
留守電に語り掛ける。ごめん、許してくれ。ごめん、愛してる。お前がいないと眠れない。
お前が嫉妬してくれて、あんなにマジで怒ってくれて、ちょっと、うれしいんだ。
おかしいよな、俺。お前、怒ってるのにさ。

ユノ。・・・ユノ。ユノ、・・・会いたい。
お前じゃないとダメなんだ。お前を傷つけたことは、謝るから。
誰に色目使われても、絶対なびいたりしないから。

戻ってきてくれよ、ユノ。頼むよ。
お前が好きなんだ。ひとりじゃ、眠れない。
頼む、帰ってきてくれ。バカみたいだと思いながらも。
ずっと、スマホに語り掛けてた。

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